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相続放棄する場合、遺品整理をしてはいけないのですか?

  • 文責:弁護士・税理士 小島 隆太郎
  • 最終更新日:2023年8月1日

1 相続放棄の効果

相続放棄をする場合の遺品整理の可否のお話に入る前提として、相続放棄がどのような制度であるかを説明します。

相続放棄は、相続放棄申述書と戸籍謄本類等の付属書類を管轄の家庭裁判所に提出し、家庭裁判所に受理されることで、はじめから被相続人の相続人ではなかったことになるという法的な効果が発生します。

これによって、被相続人の相続財産を一切取得することができなくなると同時に、相続債務も一切負担せずに済むようになります。

2 法定単純承認事由

相続放棄は、はじめから相続人ではなかったことになるという効果がある旨を説明しました。

相続人ではなくなってしまうということは、被相続人の相続財産について一切関与できなくなるということです(例外的に、次の相続人に引き渡すまでは、保存義務を負います)。

これを感覚的に説明しますと、赤の他人の物を勝手に売ったり捨てたりすることはできないということと同じになります。

そのため、相続放棄をした場合には、被相続人の相続財産を廃棄したり売却したりするなどの、いわゆる遺品整理をすることができないという結論になります。

なお、被相続人の相続財産を調査すること自体は、相続放棄手続きに影響を及ぼしません。

むしろ、相続財産を調査しないと、相続放棄をするべきか否かの判断がつかないこともあります。

では、相続放棄をする前、つまり相続放棄申述書等を管轄の家庭裁判所に提出し、相続放棄申述受理通知書が発行される前の段階で、被相続人の相続財産を売ったり捨てたりすることはできるのでしょうか。

これについても、原則として、できません。

相続放棄に関連する概念として、法定単純承認事由に該当する行為というものがあります。

法定単純承認事由する行為とは、相続放棄が認められなくなってしまう可能性のある行為のことをいいます。

典型的なものとして、相続財産の処分、費消が挙げられます。

被相続人の財産を売却したり、廃棄したりすることや、預貯金を引き出して相続人自身のために使うことが、これにあたります。

では、なぜこのような行為をすると相続放棄ができなくなってしまうのでしょうか。

その理由は、先ほど述べた相続放棄の効果、すなわちはじめから相続人ではなかったことになるという効果と関係しています。

相続放棄をする意思があるということは、相続人でなかったことになるという意思があるということであり、被相続人の相続財産に一切関与する意思がないということになります。

これに対し、被相続人の相続財産の処分や費消は、相続人でなければできない行為です。

つまり、被相続人の相続財産の処分や費消をするということは、相続人になるという意思の現れとみなすことができると考えられます。

裏返せば、相続放棄をする意思がないとみなされるため、相続放棄ができなくなるのです。

3 例外措置、実務上の対応

被相続人の相続財産の売却や廃棄、費消をしてはいけないのが原則ではありますが、一部例外があります。

まず、いわゆる形見分け程度であれば、被相続人の相続財産を取得してもよいとされています。

どの程度の相続財産の取得が形見分けとされるかについて、明確な基準は設けられていませんが、売却価値がほぼない衣類、文房具、時計、写真等であれば形見分けとみなされると考えられます。

また、遺品整理から派生するものとして、被相続人の預貯金については、被相続人の葬儀費の支払いのためであれば、社会通念上相当な金額の範囲内において法定単純承認事由にはならない場合があります。

実務上厄介な問題として、被相続人の住居内等にある残置物の扱いがあります。

具体的には、被相続人が生前使用していた衣類や家財道具等です。

被相続人が持ち家に単身で住んでいたケースであれば、急いで対応する必要性は高くありませんが、問題となるのは、被相続人がアパートやマンションなどの賃貸物件に住んでいた場合です。

本来的には、他の相続人が被相続人の残置物を処分して賃貸物件を明け渡すか、相続人全員が相続放棄をした場合には賃貸人が相続財産清算人の選任申立てをして残置物を処分することになります。

しかし、後者の場合、相続財産清算人が選任されるまでには長期間を要することに加え、賃貸人の費用負担も大きくなります。

そのため、賃貸人は、相続放棄を予定している相続人に対して、早急に残置物を処分して賃貸物件を引き渡すよう強く要求することもあります。

原則とおりに考えるのであれば、賃貸人の要求を無視することもできますが、精神的に辛い思いをされることもあります。

そこで、残置物に財産的価値がない(むしろ処分費用を要する)場合には、残置物は被相続人の相続財産を形成するものではないと捉え、処分しても法定単純承認事由にはならないと解釈することもあります。

もっとも、裁判所が明確にこのように認めているわけではありませんので、リスクを認識したうえで残置物処分をすることが大切です。