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葬儀費用は遺産分割の際にどのように扱われますか?

  • 文責:弁護士・税理士 小島 隆太郎
  • 最終更新日:2024年2月1日

1 遺産分割の際の葬儀費用の扱い

結論から申し上げますと、遺産分割協議(相続人同士での話し合い)の段階、および遺産分割調停の段階においては、被相続人の葬儀費用の扱いは相続人同士の合意で決めることができます。

相続財産から負担するということにしてもよいですし、喪主を務めた相続人が負担することとしてもよいです。

もっとも、遺産分割調停となった場合には、被相続人の葬儀費用は原則として遺産分割の対象範囲に含めることはできないとされています。

2 遺産分割協議における被相続人の葬儀費用の扱い

遺産分割に関して争いがない場合、実務上よく行われると考えられる被相続人の葬儀費用の取り扱いとしては、次の3つのパターンが挙げられます。

①被相続人がお亡くなりになる前に、被相続人の現金を手元に用意しておき(または被相続人の口座から一定の金銭を引き出して手元に置く等)、その現金を被相続人の葬儀費用に充てて、残った現金・預貯金を相続人間で分割するパターン。

②被相続人がお亡くなりになった後、いったん相続人のうちの一人が葬儀費用を立て替え、その後遺産分割協議の際に葬儀費用を清算するパターン。

一般的に、葬儀よりも前に遺産分割協議を完了させ、被相続人の預貯金の解約・名義変更までを行うことは難しいため、このような順序になります。

③喪主を務める方が葬儀費用を負担するパターン。

実際には、喪主を務める方が葬儀の際に参列者から贈られた香典を取得するということで釣り合いとるということも多いです。

3 遺産分割調停における被相続人の葬儀費用の扱い

遺産分割がまとまらなくなり、紛争に発展してしまうと、相続人間では葬儀費用の扱いについても決めることができなくなります。

弁護士を代理人につけて話し合いを続け、上記2①のパターンのように被相続人の葬儀費用を控除した後の預貯金を分割したり、上記2②のパターンのように相続人のうちの一人が立て替えた葬儀費用の清算ができるということもあります。

相続人間で遺産分割がまとまらない場合には、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立て、調停委員を介して遺産分割の話し合いを行うことになります。

遺産分割調停も、あくまでも家庭裁判所を通じた話し合いですので、被相続人の葬儀費用の扱いについては、相続人間での合意で決めることができます。

遺産分割調停において、遺産分割の対象となる財産は、基本的には遺産分割時の相続財産ですので、もし相続財産から葬儀費用を支出していたのであれば、上記2①のような形で実質的には各相続人が葬儀費用を負担することとなります。

喪主を務めた相続人が葬儀費用を支出している場合、実務では、喪主が受け取った香典の金額を明らかにし、葬儀費用と香典の差額を遺産分割で調整するということもあります。

4 遺産分割審判における被相続人の葬儀費用の扱い

遺産分割調停でも遺産分割がまとまらない場合、遺産分割審判に移行します。

遺産分割審判は、家庭裁判所が法律に基づいて、遺産分割の内容を決定する手続きです。

遺産分割審判においては、基本的に被相続人の葬儀費用は、遺産分割の対象には含められないと考えられます。

被相続人の葬儀費用に関する裁判例はいくつかあり、判断が分かれていますが、実務上よく引用される平成24年3月29日名古屋高等裁判所の判決では、次のように判断されています。

「葬儀費用とは、死者の追悼儀式に要する費用及び埋葬等の行為に要する費用(死体の検案に要する費用、死亡届に要する費用、死体の運搬に要する費用及び火葬に要する費用等)と解されるが、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式に要する費用については同儀式を主宰した者、すなわち、自己の責任と計算において、同儀式を準備し、手配等して挙行した者が負担し、埋葬等の行為に要する費用については亡くなった者の祭祀承継者が負担するものと解するのが相当である。

なぜならば、亡くなった者が予め自らの葬儀に関する契約を締結するなどしておらず、かつ、亡くなった者の相続人や関係者の間で葬儀費用の負担についての合意がない場合においては、追悼儀式を行うか否か、同儀式を行うにしても、同儀式の規模をどの程度にし、どれだけの費用をかけるかについては、もっぱら同儀式の主宰者がその責任において決定し、実施するものであるから、同儀式を主宰する者が同費用を負担するのが相当であり、他方、遺骸又は遺骨の所有権は、民法897条に従って慣習上、死者の祭祀を主宰すべき者に帰属するものと解される(最高裁平成元年7月18日第三小法廷判決・家裁月報41巻10号128頁参照)ので、その管理、処分に要する費用も祭祀を主宰すべき者が負担すべきものと解するのが相当であるからである。」

参考リンク:下級裁判所 裁判例速報

これによれば、被相続人の葬儀費用は喪主を務めた方が負担することになるので、遺産分割審判においても、同様の判断がなされる可能性が高いと考えられます。